横目でみたアメリカ
「日米中小企業のちがい」

 アメリカの中小企業も、日本のそれと同様に、金融に苦しみ、手形に悩んでいるのであろうか。私は、かねがね、それを知りたいと願っていた。
 こんどの旅行は、久しい間の、この疑問を解く絶好のチャンスと考えた。私は、あらかじめ調査、質問の項目を一覧表にして持っていった。おもなものは、両国中小企業の経営の相違、金融はどうなっているか、売掛金は、またその回収は、手形はどうか、割引料はどうなっているか、不渡り手形は……と、なかなか広範囲である。
 さて、アメリカに着いて、中小企業者に接してみると、私が、せっかく苦労してつくってきた一覧表が、ほとんどムダに近いことを知らされた。理由は簡単である。売掛金などというものはなく、すべて現金払いがあたりまえだったからである。

 まず、工場が注文を受けるとする。二五パーセントの前金をもらわなければ“受注”にはならない。もしも、これまで取引をしたことのない相手ならば、文句なく全額前金である。そういう商習慣、たてまえになっているから、手形などというオバケにお目にかかることがなく、日本のように金ぐりに八方飛び回る必要もないというわけである。どうも、別の世界の話を聞くような気がするので、それでは借金することもないのか、と聞き直したら、そのとおり、と普通の顔で答えた。とすると、銀行は、一体どうなるのか、金をどこに貸すのか。こうたたみかけると、中小企業の金は政府系の復興金融銀行とか、長期信用銀行に預けられ、設備を新しくし、経営を伸ばしていこうというときには、その預金を利用すればよいという。日本とは、大分話がちがうのである。
 さて税金。この方はものすごく高い。オハイオ州デートン市の、ある工場で調べたところ、年所得二万五千ドルに対して三○パーセント、それ以上の分には五二パーセントの税金がかけられてくるという。そのほかに、過去三年間の所得平均額をはじき出し、その年度分が平均額を超えると、超過分にも三○パーセントの税金である。所得の七、八割が税金にもっていかれる勘定で、これはべらぼうに高かった。企業の合理化は、この面からも痛切な問題だともいう。どうしたらよいのか。

 アメリカでは、人件費を極度に節約する。オハイオ州のデグロフという町の、ある工場は、工員十人に対して事務員はたった一人、百人の工員がいるところでも事務系は四人にすぎなかった。また、コールドウェルという町の工場は、八十人の工員に対して事務員二人、しかも、この二人というのが工場長と女性秘書だった。工場長の仕事は、工場管理、機械操作、本社との折衝、対外事務で、秘書は電話の取り次ぎ、タイプ、給料計算ぐらいである。この二人を軸に、工場はフルに動いている。これが日本だったら、十数人の事務系がいて、なおかつ手不足を訴えることであろう。かなり大きな会社の社長室に入ってみたが、これがまた、お粗末である。日本流でいえば、八畳敷きほどの部屋で、用だけは足りる、ただそれだけのものにすぎなかった。

 私と同業の木箱工場にも足を向けた。サンフランシスコのいちばん小さな工場を選んだのであるが、ここには十人の工員が働いていた。このくらいの規模だと、日本では三十坪でよいのだが、なんと二百五十坪の工場である。私なりに胸算用してみた。日本で三十坪の工場なら、工費六十万円そこそこ、アメリカは煉瓦づくりだから、二百五十坪として少なめに見積もっても二千万円はかかる。このちがいが、日米中小企業の格差なのだと……このわずか十人の工員が、二百五十坪の工場をどのように動かしているのだろうか。この疑問はすぐに解けた。
 木箱工場に足を踏み入れてみると、あのなつかしい金ヅチの音が少しも聞こえないのである。クギづけはすべて機械化されていたから……工場では運搬車がいそがしく往来し、目につく作業のほとんどが機械化されていた。
 トレードという町で、こんどは大きな木箱工場をみた。二千坪の工場に、百人の工員が働いているにすぎなかったが、その代わり、ものをつかみあげる機械(Fork−Lift track)が十台も活躍していた。十台の購入費三億円の機械化も容易ではないと知った。
 アメリカの中小企業といっても、日本と同様にピンからキリまである。ただ、見落としてはならないのは、大は大なりに、小は小なりに機械化され、合理化されていることである。
 日本の中小企業のように、いつも経済的圧力にえんえんとしてあえいでいては、企業の合理化も、なかなか進まない。といって、にわかにアメリカのシステムをうのみにするわけにいかないが、それぞれの能力にかなった機械化、合理化は、どうしても進めていかなければならないと感じさせられた。


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