「女房飼育の法」

 家庭が円満でなければ、男というものは、外で十分な働きができないことになっている。これは、だれでも経験ずみのことと思う。また家庭をおさめられないような男は、なにをしても、うまくいくものではない。家庭ではフラフラ、会社ではモタモタということでは、どうにも困るのであるが、世間にはこういうたぐいが思いのほかに多いようである。
 女性は、ロマンティックで、それにムードに弱いという。いかにもしおらしい定説であるが、このしおらしさもいうならば三十代まで。四十をすぎると、おそろしく現実的になること、男性の比ではないようである。それだから困るというのは、修養がたらないからで、私などは、そこがツケ目だとさえ考えている。つまりは逆手をもちいることが肝心で、物欲を満足させ、亭主の存在がだんだんかすむように仕向けるところに、コツがある。それでもいけなかったら、財産の半分もわけてやって、おたがいに納得のうえで、きれいさっぱり別れてしまうほかなかろう。

 夫婦になってから飼育法を考えるようでは、まったく遅すぎ、その前から着々と飼育にとりかかっていなければいけないのである。
 最初の心がけとしては、無色の女性を相手に選ぶことである。そして最初の言葉は酒も、たばこも大いにたしなみます、そして遊びます。しかしあなたと結婚したら、不潔なことはいっさい避けます……とお約束したいのだが、もしもできなかったらいつわりになる。だから、そのように努力することだけを約束しておきます。こうクギをさしておくのが秘訣なのである。

 さて、結婚後はいよいよ飼育法の秘術をつくす本番である。毎日の生活を通じて、男女というものが、いかに異質かを根気よく認識させることで、ひと口でいえば「男の本質は広く浅く、そこから浮気が起こる」それに反して「女の本質はせまく深い」ゆえんを説くのである。この教育が行届いていれば、浮気のあとに残るのは寒々とした味気なさで、そのときこそ、妻を愛し、家庭を愛する真実がわきあがってくるものだという男の心情を、理解してくれるに相違ない。また、同時に女というものはかりそめの浮気心ではすまされず、夫を捨て、わが子を忘れるという悲劇にまでおちいってしまう。妻たるもの、夢にも浮気心など起こすべきではないという自戒心を持たせることにもなる。まこと、けなげな女心である。

 夫にタヅナをつけて、毎日送り出すのが妻の役目である。タヅナの長さと、妻の愛情はいつも正比例するもので、短くして、手もとにおこうとすれば、かえってうるさがれる。ほどほどに長くして、身の自由をあたえれば、男などというものは単純で、せっせと働いてくれる。こういう話は、常日ごろ、さりげなくいっておいてこそ、絶大な効用がある。 
 飲んで、遅く帰ったときの心得も大切である。男が単に働くだけなら、バーやキャバレーはどうなるだろうか、おそらくオール廃業であろう。つまり、男の遊びは社会生活の仕組みにつながっているわけで、これに背を向けることはできない。男の世界に“孤立”を求めてはならない。妙ないいまわしかもしれないが、これで、結構通じるものである。遅くなったら、手みやげのひとつも、という心がけがあれば、なおさら好結果がえられる。
 ときには、女房同伴でバー、キャバレーにいくのも、なかなか効果があるものである。そんなバカなことをと、お考えになる向きが多いようであるが、実はそういう遊びの場に同伴することで、妻としての自分の地位に、むしろ安心感を持つようになるのが女心というもの。まことに不思議である。女房に見せたくない、知らせたくないと、こそこそするから、かえって疑惑をあたえるのである。堂々と、ふるまうにかぎる。

 この辺のところまでは、あなたも「できる」とお答えになるであろう。そこで、くれぐれも、ご注意しておきたいのは、あせると、すべてがパーになるおそれが多分にあるということである。では、次の段階にはいろう。 
 出張という仕事がたびたびある。こんどの出張は四日間と決まったら、女房には五日間と申し聞かせ、そのうえで四日間で帰ってくる。これからが大切で「大事な用務で、もう一度出かけてくる」といい、急用が起きたら、この待合に連絡するようにと、つけ加えておく。わざわざ行先まで知らせ、しかも出張先から直行してもよいものを、一度帰宅してくれた。たいていの女房は、これでコロリである。簡単なようだが、スラスラとできるようになるまでには、前段の基礎づくりがものをいうのである。
 さらに段階が進むと、もはや技術というよりも信念に近い。それだけに高度の技術も要求される。夫婦も十年をすぎれば、双方ともにベテランの域にある。夫の行動について外部からの情報も耳に入ろうし、女特有のカンも働く。だから夫に対して、しばしばさぐりを入れる術も心得てくるものであるが、そんなとき、断固として、身の潔白を宣言しなければいけない。その自信に満ちた宣言、態度こそが女房の信頼感を深める最大で、ただひとつの“技術”である。
 あれもこれも、せんじつめれば、女の本質をわきまえ、女房本来の愛情を、夫に傾注させるような心くばりが大切ということであろう。

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