「しぼられているのはだれか

 労働組合が団体交渉を申し入れてきたからといって、顔色を変えるにはおよばない。まあ、会議室にとおしなさい。そして
「きょうは団体交渉ではなく、団交を進めるためのルールを話し合おうじゃないか」
 と、はっきりいうことである。ルールをきめてから、団交に入っても、決して遅くないし、むしろ、そうしないからムダな話し合いが多すぎるのである。
 組合は、口を開けば、われわれの行動は憲法で保証されているというが、それならば、経営者には、なんの保証もないとでもいうのであろうか。
 なるほど、憲法二十八条は団結権、団体行動権、団体交渉権の、いわゆる労働三権をあたえているが、団体権も団体行動権も、つまりは団体交渉という目的のために存在する。組合をつくるのは、使用者と対等の立場で団交するためで、争議をやるのも、団交での交渉を有利にする手段である。労働組合法で、使用者が団交をことわることを不当としているのも、団交を軸として考えているからである。社長さんよ、だから団交をことわってはいけません。堂々と、それに応じることだが、ただしルールをきめておいてからやらないと、いたずらにもめてしまう。団交をいやがる社長が、あまりにも多いのに、私は腹をたてないではいられない。

 どんな場合でも、労働組合法第一条第二項で暴力は許されていないのだから、このことを、まずしっかりと頭に入れておく必要がある。もしも、脅迫を受けたら刑法第二百二十一条、暴行されたら第二百八条、傷害を受けたら第二百四条、監禁されれば第二百二十条、器物をこわされたら第二百六十一条といったぐあいに、日時と場所と相手をおぼえていれば告訴できることになっている。むろん、こんなことは避けるに越したことはないが、組合だけが一方的に、なにをやってもかまわないというわけではない。これを知っていてほしいのである。

 さて、団交のルールだが、まず議題をきめておくことが肝心で、とんでもないことまで議題にのせるから、話がややこしくなる。次に双方の人数をきめておく。第三は交渉員の権限をきめておくこと、第四は交渉権委任の問題で、上部団体が組合の委任を受けて出てくることがあるから、これを話し合っておく。第五には日時と場所、第六は交渉の態度について話し合い、第七はお互いに記録をとっておくこと。まあ、これくらいは、はっきりさせておかなければいけない。

 よく考えてみると、労働組合もノーマルとは申しかねるような気がする。われらの敵だ、断固としてたたかおう、そして、われわれは勝利をかち取った…とくるのだからやりきれない。相手がそうなら、こちらも、それなりのやりかたで立ち向かわなければ調子が合わないではないか。敵、敵と口にしながら、その敵から給料をもらうというのも、おかしな話である。敵の給与を受けるのは、捕虜だけで、捕虜には、なんの権利もなかったと思い込んでいた私の頭がおかしいのであろうか。搾取、搾取というけれども、いまの世の中で、本当にそうなのは、巨大企業の経営者とその労働者。もうひとつ、親方日の丸のお役人ぐらいのものである。とりわけ、親方日の丸組は、生産性と賃金というルールからみたら、お話にならない。おそろしく非能率的な仕事をして、そのくせ税金だけは無神経なまでに、お使いになる。人事院という結構なお役所が能率の判断もせずに、ベースアップの勧告をしてくれるのだから、まことにありがたすぎる。それにしても中小企業にシワよせしたうえで、大企業の労使が安眠していながら、二重構造の解消などというのは、まことにもって筋がとおらないと思う。

 数字は、あまり得意とする方ではないが、法人企業統計によると、資本金五百万円未満の企業が、なんと九四パーセントも占めている。一億円以上となると、たったO.五八パーセントである。わずか数百にすぎない十億円以上の企業が、総資本の六Oパーセント以上を占め、従業員数で五Oパーセントを越え、売上高と純益でも六Oパーセントを越えるという実情を、もう一度見直したいものである。
 そのうえ、中小企業が手がけている事業でも“これはもうかる”とみれば、なんの遠慮もなく進出してくる。大企業と中小企業の分野調整とかなんとか、いまごろになってさわぎたてても、もはや手遅れであろう。
 あれこれ考え合わせると、はっきりする。中小企業の経営者など、本当は搾取する立場にいないのである。だから、それらの経営者は、腹の底から、おれたちにも搾取させてくれとどなりたい気持ちである。

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