「古い請願書

 机のなかを整理していたら、古めかしい一枚の印刷文が出てきた。請願書と書いてある。都知事と都議会議長に差し出した中小企業の金融打開をうったえたもので、請願人のなかには、故人をふくめてなつかしい名が書きつらねてある。私の名前もあった。昭和二十五年二月のことであった。

 当時はドッジ・ラインという不況の風が吹きすさんでいたころで、請願書は危機をさけび、このままでは倒産するほかないと激しい字句をぶつけている。そして、組織金融の急務をうったえ、それには商工債券の発行再開が必要であるが、それを待つ余裕さえないのだから、東京都が商工中金に預託し、これで組合金融を救ってほしいと結んでいる。

 この請願がみのって、たしか三億円の預託が実現したと記憶している。一人の力ではどうにもならないが、みなが力を合わせれば、よほどの難事でもなしとげられるものだと、よろこび合った当時が、なつかしく思い起こされた。こんな回想を打ち消そうとでもするように、会議への出席を催促する使いがきた。
 どういうめぐり合わせか、会議は金融委員会であった。目の前で論議されていることは、古い請願書とほとんど変わるところがない。そうすると、請願書を出したころと、いまとを比べても、少しも環境が変わっていないということであろうか。自己嫌悪感が頭をもたげそうになるのを、押さえ切れなかったのである。しかし私は思い切りよく、回想の糸をたち切り、きょうの議題に新しいファイトを燃やすことにした。


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